研究の動向
本章では、連関モデルおよび関連する研究の動向を概観する。連関モデルは1970年代にLeo A. Goodmanによって体系化されて以来、社会移動研究を中心に発展してきた。ここでは、主要な研究の流れを整理し、各モデルの特徴と貢献を説明する。
連関モデルの起源と発展
連関モデルの理論的基礎は、Leo A. Goodman (1979) によって確立された。Goodmanは、クロス表における行変数と列変数の連関を、行スコアと列スコアの積として表現する方法を提案した。この枠組みは、それ以前の対数線形モデルでは捉えきれなかった順序変数間の連関構造を分析することを可能にした。
Goodmanはその後も行効果モデルと列効果モデルを導入し、連関モデルの適用範囲を拡大した。これらの発展により、連関モデルは実証研究への適用が広がっていった。
一様連関モデル(Uniform Association Model)
一様連関モデルは、順序カテゴリを持つ変数間の連関を分析するための基本的なモデルである。
- Duncan (1979):職業移動研究における一様連関モデルの適用を示した先駆的研究である。Duncanは、世代間の職業移動表に一様連関モデルを適用し、移動パターンの規則性を明らかにした。
一様連関モデルは、行と列のカテゴリに等間隔のスコア(1, 2, 3, …)を割り当て、連関の強さを単一のパラメータで表現する。このモデルは、順序変数間に線形的な関係があると仮定する場合に適している。
RC連関モデル
RC連関モデル(Row-Column association model)は、Leo A. Goodman (1979) によって提案された。このモデルでは、行スコアと列スコアをデータから推定するため、変数間の連関構造をより柔軟に捉えることができる。
RC(M)モデルは、M次元の連関構造を仮定する。RC(1)モデルは1次元の連関を、RC(2)モデルは2次元の連関を表現する。次元数を増やすことで、より複雑な連関パターンを捉えることができるが、解釈の困難さも増す。
SAT(Status-Autonomy-Training)モデル
SATモデルは、職業移動における連関パターンを理論的に解釈するために開発された。
- Hout (1984):アメリカの職業移動データ(OCG 1962年・1973年)を分析し、社会経済的地位の効果だけでは出身と到達の連関を説明しきれないことを示した。労働者に与えられる「自律性(Autonomy)」と必要とされる「訓練の専門性(Training)」も移動に重要であり、特に不動(immobility)において重要な役割を果たすことを明らかにした。
- Hout (1988):1972年から1985年にかけて、男女の社会経済的出身と到達の連関が3分の1減少したことを示し、このトレンドが大卒労働者の増加と関連していることを明らかにした。
SATモデルは、データ駆動型のRC連関モデルと、理論に基づく解釈を結びつけた点で重要な貢献をした。
SHD(Sobel-Hout-Duncan)モデル
SHDモデルは、社会移動における「構造移動(structural mobility)」と「交換移動(exchange mobility)」の概念を、準対称モデル(quasi-symmetry model)のパラメータと対応づける手法である。
- Sobel, Hout, and Duncan (1985):従来の構造移動と交換移動の概念化が対数線形モデルのパラメータと適切に対応していなかった問題を指摘し、準対称モデルを用いた新たな定式化を提案した。
交換移動(reciprocated mobility)は、職業カテゴリ間の対称的なフロー(AからBへの移動とBからAへの移動が等しい部分)として定義される。構造移動は、周辺分布の異質性が出身階層に一様に作用する効果として定義される。
準対称モデル(またはその特殊ケース)が成立する場合、モデルのパラメータと構造・交換の概念の間に対応関係が成立する。この対応関係により、アドホックではない、パラメトリックな構造移動の指標を構築することが可能になる。ただし、準対称モデルが成立しない場合は、構造と交換の概念とモデルパラメータの対応は部分的なものにとどまる。
対数乗法層効果モデルと Unidiff モデル
複数のクロス表を比較する際に、連関パターンの「形」は同じで「強さ」だけが異なるという仮説を検証するモデルが開発された。
対数乗法層効果モデル
Unidiff(Uniform Difference)モデル
- Erikson and Goldthorpe (1992):国際比較研究において、国による職業移動パターンの違いを分析するUnidiffモデルを適用した。このモデルは、異なる国の移動表が同じ「形」の連関パターンを持ちながら、その「強さ」だけが異なるという仮説を検証する。
- Xie (1992):同時期にAmerican Sociological Reviewにて「log-multiplicative layer effects model」として発表された。Unidiffモデルの統計的性質を詳細に検討し、識別条件や推定方法について論じた。
Unidiffモデルは、国際比較や時系列比較において、連関パターンの変化を定量的に評価するための強力なツールとなっている。
Unidiffモデルを用いた実証研究
Unidiffモデルは、教育拡大が社会移動に与える影響を分析する実証研究でも広く用いられている。
- Breen (2010):教育拡大と社会移動の関係を分析するための反実仮想的分解手法を開発した。Unidiffモデルを用いて英国・スウェーデン・ドイツの20世紀における教育拡大の効果を分析し、3カ国すべてで教育拡大がより大きな社会移動を促進したことを発見した。
- Pfeffer and Hertel (2015):Breenの分解手法とUnidiffモデルを用いて、1972年から2012年のアメリカにおける教育拡大と社会移動の関係を分析した。社会階層移動の漸進的な増加はほぼ構成効果(高学歴者の増加)によるものであり、教育における階層不平等は安定していたことを明らかにした。
これらの研究は、Unidiffモデルが方法論的なツールとしてだけでなく、社会移動研究における実質的な問いに答えるためにも有用であることを示している。
回帰型モデル
連関モデルを回帰分析の枠組みで再定式化する研究も進められた。
- Leo A. Goodman et al. (1998):2つの質的変数間の連関が国・グループ・時間によってどのように異なるかを分析するための統計的方法とグラフ表示を提案した。「修正された回帰型アプローチ(modified regression-type approach)」として知られる。
- Leo A. Goodman and Hout (2001):上記の続編として、探索的技法、単純モデル、単純な例を提示した。
この研究は、クロス表分析における連関の比較を、より解釈しやすい形で行う方法を示した。
連関係数と要約統計量
クロス表の連関の強さを要約する指標についての研究も重要である。
- Zhou (2015):移動表比較のための対数オッズ比の縮小推定量を提案した。経験ベイズの枠組みで複数の表から「強さを借りる」ことで推定効率を改善し、Altham指数の調整推定量も構築した。
- Bouchet-Valat (2022):オッズ比、Altham指数、内在的連関係数、対数乗法モデルの係数の直接的関係を明らかにし、0から1の間で変動する正規化版の連関係数を考案した。
連関モデルから得られるパラメータと、クロス表の連関係数との関係を理解することは、分析結果の解釈において重要である。
因果推論との関係
連関モデルを因果推論の観点から再検討する研究がある。
- Yamaguchi (2012):セミパラメトリック回帰モデルを仮定し、調整済みクロス表においてXのYへの因果効果を保持する方法を提案した。対数線形・対数乗法の連関分析と因果分析を接続する新しい枠組みを導入した。
- Kuha and Goldthorpe (2010):一部の変数がカテゴリカルな場合でも直接効果と間接効果を推定できる一般的パス分析法を提案した。英国調査データを用いて、教育達成が世代間社会移動に与える効果を分析した。
クロス表分析は記述的な手法として用いられることが多いが、因果的な解釈を行う際には、交絡変数の統制や選択バイアスへの対処が必要となる。
オッズ比と限界効果
対数線形モデルや連関モデルの効果の解釈に関連する研究がある。
- Karlson and Jann (2023):周辺オッズ比(marginal odds ratios)を導入した。従来のオッズ比と異なり、周辺オッズ比は省略された共変量の影響を任意に受けないため、平均限界効果と同様の性質を持ちながら、オッズ比の相対効果としての解釈を維持できる。
- Mize (2019):非線形交互作用効果の推定・解釈・提示のベストプラクティスを提示した。非線形効果と交互作用効果を組み合わせた分析を線形交互作用と同様に扱うことの問題点を指摘し、正しいアプローチを示した。
連関モデルは対数線形モデルの一種であり、非線形モデルである。そのため、効果の大きさを解釈する際には、これらの研究が示す手法が有用である。
対応分析との関係
連関モデルと対応分析は、密接な関係を持つ。
- van der Heijden and de Leeuw (1985):対応分析と連関モデルの関係を理論的に検討した。両者は、クロス表の連関構造を低次元空間で表現するという点で共通している。
- van der Heijden and Worsley (1988):対応分析の結果を連関モデルの枠組みで解釈する方法を示した。
対応分析は、特異値分解(SVD)に基づく手法であり、探索的なデータ分析に適している。一方、連関モデルは最尤法に基づく確率モデルであり、仮説検定やモデル比較が可能である。両者を組み合わせることで、データの構造をより深く理解できる。
今後の展望
連関モデルは、以下のような方向で発展が期待される。
- ベイズ推定:事前分布を用いた推定により、小標本での安定した推定や、事前知識の組み込みが可能になる。
- 因果推論との統合:傾向スコアや操作変数法と組み合わせた因果的な分析。
- 大規模データへの適用:計算効率の改善により、より大きなクロス表の分析が可能になる。
- 機械学習との接点:次元削減や特徴抽出の観点からの連関モデルの再評価。